認知症数
日本人の平均寿命は男性 80.79歳、女性 87.05歳であり、この内認知症の高齢者は、200万人といわれています。
85歳以上の3~4人にひとりは認知症の可能性があるともいわれています。特にご本人や家族に認知症の認識がなく、口腔ケアを行っているときに認知症と気づき、専門医に診てもらうということもよくあります。
高齢者の口腔ケアを行う場合、事前にそのような診断名がついていない場合はもちろん経年的に口腔ケアを行っている場合も、昨年は問題がなかったが今年は少し様子がおかしいという場合もあります。口腔ケアを行っていて認知症が疑われた場合には、適切な対応が必要となります。
認知症高齢者の増加
認知症の予防や治療が十分でない現況において、高齢者の認知症は増加しており、このままだと20年後には300万人になると予測している報告もあります(図1)。
しかし今後、口腔ケアをはじめ、この分野の関係者の努力により認知症の方の減少が望まれます。
(大塚俊男:日本における痴呆性老人数の将来推計を
もとに,日精協誌 Vol.20 No.8:67, 2001.)
認知症の症状
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① 記憶障害
短期のみでなく、長期の記憶も失われていきます。
直前の記憶がなく、同じことを何度もいったり聞いたりします。
過去の体験や経験を忘れ、症状が進むと家族の名前や家の中のトイレの場所でも忘れてしまいます。
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② 過食、異食
食事をしたことを忘れたり、本来は食べられない物を食べたりします。
症状が進むと隠れて食べたりします。
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③ 攻撃的
周囲の方々への暴言や暴力、また介護されることへの抵抗などがみられることがあります。
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④ 妄想、幻覚
「食事をくれない」「お金を盗られた」などの妄想や、相手もいないのに会話したりする幻覚がみられます。
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⑤ 見当識障害
時間や場所がわからなくなり、近所なのに自宅への帰り道がわからなくなってしまうこともあります。
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⑥ 昼夜逆行
昼寝をして夜中に寝ずに行動的になります。
夜中に食事を隠れて食べたり奇声を発したりすることがあります。
その他意思の疎通がはかれない、人に何でも依頼してしまうなど、症状は多岐にわたります。口腔ケアの実施にあたり、このような症状を慎重に観察、理解して対応する必要があります。
通常の老化と認知症の違い
すべての人は老化していきます。特に脳細胞は1日に数万~10万個ほど死滅すると考えられています。このため、どこまでが通常の老化なのか、また認知症との境界はどこかといった判断は困難ですが、一般的にいわれている違いについて表1に述べてみます。
認 知 症 | 通常の老化現象 |
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体力に関係なく日常生活ができない | 体力はおちてくるが日常生活には支障はない |
体験した出来事のすべてを忘れていく 最近の出来事の記憶がない |
子供のころの記憶は、比較的鮮明 最近のことについて記憶がはっきりしない 名前などがとっさに思い出せない |
時間や場所についてはっきりしない | 時間や場所について理解ができる |
幻覚、妄想がある場合がある | 幻覚、妄想はない |
人格が崩壊してしまう場合がある | 人格の変化はない |
認知症とうつの違い
口腔ケアを行っていて認知症という診断名が付いている場合でも、認知症以外の病気ではないかを疑う場合があります。また他の病名だけで認知症、うつ状態のいずれか判断のつかない場合もあります。以下に一般的な差異を説明しますが(表2)、独自に判断せず、専門医の判断を仰ぎましょう。
うつ状態では自責感を訴えることもしばしばみられ自殺願望が強くみられることがあるので、この点は口腔ケアのときも要注意です。
認 知 症 | うつ状態 | |
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会 話 | 困難で意思の疎通が難しい | 困難でない |
記 憶 | はっきりしない 若いころのこともあいまいなことも多い |
本人は忘れていると訴えるがそれほどの低下はない |
感 情 | 表面的に動揺しやすい 暴力的になることもある |
抑うつ状態 |
応 答 | はっきりしない 怒りやすい 返答がない |
遅いが答えようと努力する 一生懸命考えたうえでわからないと答える |
自殺願望 | 少ない | しばしばみられる |
(日精協誌 Vol.20 No.8、P67、2001より)
認知症のメカニズム
認知症は後述するさまざまな病気により脳に障害が起き、脳が情報を取り込めなくなったり、保存していた情報を取り出せなくなります。
認知症の原因となる病気
脳血管性障害
アルツハイマー病
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その他
狂牛病、エイズ、梅毒などで感染症により脳に障害を受けた場合、交通事故など外傷により脳を強く打ったり脳に傷をつけてしまった場合、水銀中毒、アルコール中毒、鉛中毒などの毒性物質により、脳が損傷された場合、さらには脳腫瘍、尿毒症、ホルモン異常などにより脳神経などにダメージを受けた場合など多くの原因がみられます。
「痴呆」という病名と「認知症」
「痴呆」という名称は、今までは広く使用されていましたが、「痴呆」という漢字には、侮蔑的な表現を含み、またこの病気の正確な病因と一致しません。さらにはこの病気の早期発見、早期診断を行うのに適した病名にすべきであるということで「認知症」という用語が厚労省の用語検討会議で示されました。
認知症の分類
認知症にはその部位、原因進行度などでさまざまに分類されています。具体的には皮質性認知症と皮質下性認知症に分類する場合と、血管障害性認知症と変性性認知症に分類する場合があります。原因疾患による分類として次のものがあります。
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血管障害性認知症
- 多発梗塞性認知症広範虚血型
- 遺伝性血管性認知症
- 多発性脳梗塞型認知症
- 限局性脳梗塞型認知症
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変性性認知症
- アルツハイマー型認知症
- 前頭側頭型認知症
認知症の発症率
発症率はあくまでも推定ですが、一般に65歳以上で年間1%程度、70歳以上で2%以上、80~85歳で8%程度といわれており高齢になるほど年間発症率は上昇します。
アルツハイマー型認知症とは
アルツハイマー型認知症は、認知症のなかでもっとも頻度の高い病気です。アルツハイマー病の原因は現在のところ不明なことが多く、研究者が病因治療の解明に努めています。脳内でさまざまな変化が起こり、脳の神経細胞が急激に減少して、脳が委縮、崩壊して知能低下を生じます。
初期の症状は緩やかに進行し、物忘れ、約束した面談を忘れてしまう、新しいことを覚えることができない、お礼の手紙を何度も出してしまう、相手に何度も名前を聞く、などの症状がみられます。また、妄想や抑うつの症状が最初の気づきになる場合もまれにあります。初期ではCTやMRでもはっきりした所見を認める場合もあります。
アルツハイマー症の進行
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初期症状
① 物忘れがひどくなる
② 同じことを何度も繰り返し話す
③ 同じ内容を何度も聞く
④ 体験したことが覚えられない
⑤ 約束した時間、内容を忘れる
⑥ 食事を食べたばかりなのに食事を催促する
⑦ 同じものを何回も買ってくる -
中期症状
① 数の計算ができなくなる
② 会話をしていても言葉の意味が理解できない
③ 時間、場所の認識ができなくなってくる
④ 妄想、幻覚症状が出て来る -
末期症状
① 会話ができなくなる
② 日常生活が自身でほとんどできない
③ 家族の名前がわからない
④ 自宅のトイレの場所を忘れる
⑤ 人格の崩壊
⑥ 何もせず恍惚状態で過ごすことが多くなる
認知症に対する治療
認知症の原因となった病気がはっきりしている場合、その病気の治療も行われます。認知症本態については、これをすれば治るといった特効薬的治療はありません。
本人の年齢や環境を考慮しながらオーダーメイドの治療が必要です。直接的には最近アルツハイマー型認知症の症状の進行を遅らせる薬物ができました。これは認知症を治すことはできませんが、進行を遅らせることを目的に使用されています。
またその他症状を治療する、すなわち対症療法のための治療としては幻覚や不安などの精神症状、徘徊などの周辺症状の精神薬などの投薬は主治医に相談してください。薬物療法のみでなく、心理療法や回想法(患者のアルバムなど情報を集めて思いださせ自己認識を回復させる)やRO(リアリティ・オリエンティション:周囲の交流などを通じて関心を促す)、音楽療法(本人の好きな音楽を聞かせたり、一緒に歌ったり演奏させて脳を活性化する)、アニマルアシストセラピー(犬猫などの動物との交流を通じて関心を引き出す)などがありますが、もちろん口腔ケアを含めたリハビリテーションを通じて運動障害の改善、体力の維持増進を図ることも重要です。
高齢者を対象とした施設
高齢者を対象とした施設 | |
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介護老人福祉施設 (特別養護老人ホーム) |
常時介護が必要で自宅での生活が困難な方の施設です。 |
介護老人保健施設 (老人保健施設) |
病状が安定した状態にあり、介護やリハビリが必要な方の施設です。 |
介護療養型医療施設 (療養型病床群、老人性認知症疾患療養病棟、介護力強化病院) |
上記2施設に比べ、看護や医学的な対応がより必要な方の施設です。 |
ケアハウス | 介護利用型軽費老人ホームの別称です。 3種類ある軽費老人ホームのひとつで、車椅子生活になっても自立した生活を送れるよう配慮した造りになっています。 |
有料老人ホーム | 通常10人以上の高齢者を入所させて、食事その他の日常生活上必要な便宜を提供することを目的とした施設です。都道府県知事に届出を行うこととされています。 運営や構造設備に関するガイドラインが示されており、これを満たす有料老人ホームには低利融資制度があります。有料老人ホームが介護サービスを提供している場合、それが一定の要件に該当すれば、介護保険制度における居宅サービスのひとつである「特定施設入所者生活介護」として保険給付の対象になります。 |
いろいろなサービス | |
訪問介護 (ホームヘルプサービス) |
ホームヘルパーがご自宅を訪問し、入浴、排泄、食事などの介護や身の回りのお世話をします。 |
訪問入浴介護 | ご自宅を訪問し、浴槽を提供して入浴のお世話をします。 |
訪問看護 | 保健師や看護師などがご自宅を訪問し、療養上のお世話または必要な診療のお世話をします。 |
訪問リハビリテーション | ご自宅を訪問し、理学療法や作業療法など、必要なリハビリテーションを行います。 |
通所介護 (デイサービス) |
日帰り介護施設などで、入浴、食事の提供や身の回りのお世話をします。 |
居宅療養管理指導 | 医師、歯科医師、薬剤師などがご自宅を訪問し、介護に関わる指導を行います。 |
短期入所生活介護 (ショートステイ) |
ご家族の都合で家庭の介護が一時的にできない場合、短期入所施設などで短期間お年寄りのお世話をします。 |
認知症高齢者 グループホーム |
介護保険における居宅サービスのひとつで、グループホームとよばれています。認知症高齢者の中でも比較的元気な5~9人程度を小規模な施設や住宅に集め、唯一、要支援の人が対象外となるサービスです。 |
関連図書
認知症の口腔ケアについて、一般社団法人 日本口腔ケア学会より詳しく解説した図書を出版しています。
- 認知症高齢者の口腔ケアの理解のために
編集 一般社団法人 日本口腔ケア学会 監修 夏目長門 発行 一般財団法人 口腔保健協会 価格 2,160円(税込)